台湾醤油メーカーの挑戦と未来

みなさんこんにちは、applemint 代表の佐藤 (@slamdunk772) です。

先日、ご縁があって、雲林にある台湾の醤油メーカーを訪問してきました。

この醤油メーカーさんは、台湾でも数少ない伝統的な醤油の作り方を受け継いでおり、創業から70年、現在は三代目にあたります。

経営は兄弟二人で行っていて、ぶつかることもあるようですが、それでもうまく二人で経営できているなという印象を受けました。

兄弟で経営していることから、醤油ブラザーズと呼ばれているそうです😗

日本の醤油メーカーでも、兄弟で経営するケースは少なくありませんが、仲違いしてしまうことも多いそうです。
それに比べると、今回ご紹介するこの醤油メーカーさんは、非常にうまく経営されている印象を受けました。

今回のブログでは、台湾ならではの伝統的な醤油作りと、彼らのユニークな取り組みについてご紹介したいと思います。

台湾の伝統産業というと、どこか保守的で新しいことを好まない印象があるのですが、この企業に関しては全く違い、本当に刺激を受けました。

台湾の伝統的な醤油の作り方と日本の醤油作りの違い

台湾の醤油作りがどれほどユニークなのかをお伝えするために、まずは日本の醤油の製造工程について、本当に簡単にご説明します。

1. 大豆を蒸して、小麦を炒めます

2. 種麹を混ぜて麹にし、塩水を混ぜて桶に入れます

3. 圧搾 (醤油を絞ります)

4. 火入れ&濾過:微生物の活動を止める&殺菌

ざっくり言うと、このような流れです。

では、これが台湾のこの醤油メーカーだとどう変わるのか?
以下、簡単にご紹介します。

1. まず黒豆を蒸します。

黒豆よりも大豆のほうがたんぱく質が多く、たんぱく質の量はそのまま旨みに直結します。
多くの醤油メーカーは、少しでも旨みを高めたいと常に考えているため、この観点から言えば、実は大豆で醤油を作るほうが旨みを出しやすいと言われています。

それでも彼らが黒豆にこだわる理由は何か?
それは、「台湾人の味覚が、黒豆の持つ独特の旨みや風味に慣れているから」と彼ら自身が話してくれました。

2.次に、蒸した黒豆に発酵のための菌(種麹)をまんべんなくふりかけます。

このときに米糠(ぬか)も加えます。
というのも、大量の豆に対して使える発酵菌の量はごくわずかなので、菌が豆全体に行き渡るように糠を“媒介”として使うのです。

ちなみに、この発酵菌は日本・大阪の会社のものを使っているとのことでした。
(でも、どうやって輸入しているのかは聞きそびれてしまいました……)

少し余談になりますが、現在、日本国内でこのような発酵菌を培養・提供している企業はわずか10社ほどしかありません。
いずれも、日本のお酒や味噌、醤油の製造に必要な発酵菌を提供している専門会社です。

大手の企業になると、自社で菌を培養しているところもありますが、中小のメーカーではそうした余裕はなく、毎回購入しているそうです。

「それ、ほとんど独占ビジネスじゃないですか!」
──思わずそんなことを、同行してくれていた職人醤油の代表の方に口にしてしまったのは私です。

というか、たった10社で日本全国の発酵菌需要をカバーしているって、すごいことですよね……😅

3. 発酵を終えた黒豆は、ふわふわとした菌の膜(菌糸)が豆の表面に広がって、まるで白いコーティングのような状態になります。

日本ではこの状態のまま次に塩水を加えるのですが、台湾のこのメーカーでは、なんと豆の外側についた菌を一度洗い流します。

その理由は、「菌が塩と絡みにくい」ためだそうです。
日本の場合は塩水を加えるため、そのままでも問題ないのですが、台湾では塩を“そのまま”加える工程があるため、塩と菌がうまく混ざらないんですね。

そのため、一度外側の菌を洗い落としたうえで、塩を加えるという工程を取っています。

ちなみに、日本と同じように塩水を加える方法もあるそうですが、その場合も菌を洗うんですかね🤔🤔
すみません、聞きそびれてしまいました😅

4. 塩と豆を樽に入れて密封

塩と豆を「塩:1、豆:5」の比率で樽に入れ、しっかり密封した状態で半年から1年ほど寝かせます。
この間、雨水や雑菌が入らないように注意する必要があります。

5. 1年後に水を加え、火入れを行う

1年後、樽を開けて中に水を加えます
もしここで塩水を加えてしまうと、味が非常に塩辛くなってしまうため、あくまで加えるのは“水”です。

ちなみに日本の場合は、最初の段階ですでに塩水を加えて仕込んでいるため、この工程とは少し異なります。

その後、発酵を止めるため、そして殺菌のために火入れ(加熱処理)を行います。

このあとにも、もしかしたらさらに工程があるかもしれませんが、台湾でいわゆる「乾式」と呼ばれている醤油の製法は、おおよそこのような流れで間違いないかと思います。

ここまでの理解にたどり着くまで、実はけっこう時間がかかりました…😅

料理をしない台湾人と料理をさせたい醤油メーカー (御鼎興)

料理をするかどうかは、醤油メーカーにとって死活問題です。
なぜなら、料理をする人が減れば、家庭用の醤油の需要も減ってしまうからです。

残念ながら、台湾にある一般的なレストランでは、彼らのような伝統的製法で醤油を作っているメーカーの商品が使われることは非常に少なく、結果として一般の消費者との直接的な接点が非常に重要になります。

そこで注目したいのが、彼ら――醤油ブラザーズの取り組みです。
兄弟はそれぞれ異なるアプローチで活動しており、兄は「ミクロな視点」で、弟は「マクロな視点」で動いています。

どういうことかというと…

兄は、2017年から地元・雲林の農家やアーティスト、シェフと連携して、彼らの醤油や地元野菜を使ったイベントを開催しています。

何がすごいって、この活動をもう8年間も継続しているということです。
イベントというのは、達成感はあっても収益化が難しく、疲れることも多いため継続が大変なのですが、それでもコツコツと続けてきたんです。

僕なら続けられません😂(経験者は語る)

最初は参加者が10人程度だったそうですが、今では100人以上が参加する規模にまで成長しています。

一方、弟は写真や文章が好きということもあり、情報発信に力を入れています。
彼らのFacebookページを見て驚いたのですが、なんとフォロワーが3万人以上いるんです!
しかも、投稿に対するエンゲージメントも高く、フォロワーとのつながりをしっかり築けていることがわかります。

ニッチな分野である「醤油メーカー」でこれだけの数字と反応を得ているのは、本当にすごいことだと思います。
これはまさに、ミクロとマクロの両輪をしっかり回してきた結果だと感じます。

そしてもうひとつ印象的だったのが、デザインセンスの良さです。
彼らがプレゼントしてくれた帽子もすごくカッコよかったですし、兄が見せてくれたイベント紹介のPowerPoint資料も、デザインをしっかり理解している人が作ったと一目でわかるクオリティでした。

今後の『御鼎興』の活躍に期待です。

以上、applemint 代表佐藤からでした!